デイリーアーカイブ May 28, 2025
欧州仕様のE-Bikeの特徴とは? FANTIC製フルサスE-MTB「XF1 INTEGRA」に乗ってみた
身近に乗れる乗り物というのは、その国によって地域に根づいている乗り物なので意外と、国によって法律が異なる事が多いドメスティックな製品なのはあまり知られていない。その中でも、法律が国によって違うのは電動アシスト自転車、E-Bikeだろう。日本の電動アシスト自転車のアシスト比は以下のように定められている。
第一条の三 法第二条第一項第十一号の二の内閣府令で定める基準は、次に掲げるとおりとする。
一 人の力を補うために用いる原動機が次のいずれにも該当するものであること。
イ 電動機であること。
ロ 二十四キロメートル毎時未満の速度で自転車を走行させることとなる場合において、人の力に対する原動機を用いて人の力を補う力の比率が、(1)又は(2)に掲げる速度の区分に応じそれぞれ(1)又は(2)に定める数値以下であること。
(1) 十キロメートル毎時未満の速度 二(三輪又は四輪の自転車であつて牽けん引されるための装置を有するリヤカーを牽けん引するものを走行させることとなる場合にあつては、三)
(2) 十キロメートル毎時以上二十四キロメートル毎時未満の速度 走行速度をキロメートル毎時で表した数値から十を減じて得た数値を七で除したものを二から減じた数値(三輪又は四輪の自転車であつて牽けん引されるための装置を有するリヤカーを牽けん引するものを走行させることとなる場合にあつては、走行速度をキロメートル毎時で表した数値から十を減じて得た数値を三分の十四で除したものを三から減じた数値)
ハ 二十四キロメートル毎時以上の速度で自転車を走行させることとなる場合において、原動機を用いて人の力を補う力が加わらないこと。
ニ イからハまでのいずれにも該当する原動機についてイからハまでのいずれかに該当しないものに改造することが容易でない構造であること。
二 原動機を用いて人の力を補う機能が円滑に働き、かつ、当該機能が働くことにより安全な運転の確保に支障が生じるおそれがないこと。
人力と電力補助の最大比率は、一般的な自転車の場合、10km/h以下で1対2。10km/hから24km/hまでは1対2から0までの線形逓減、24km/h以上は1対0となる。出力制限は規定されていない。
EU市場に関しては、最大連続定格出力250Wで、アシスト比率の制限は無く、アシスト速度は時速25キロまで。アメリカの場合、州によって違うが、アシスト制限は時速32キロで出力は750Wから1000Wまで対応しているが、年齢制限があり、14歳から乗れるのが多い。
気になるのが日本仕様のE-Bikeと海外仕様のE-Bikeの違い。今回、EU仕様(定格出力250W、最大トルク90Nm)を採用したクローズドコース専用E-Bike「FANTIC XF1 INTEGRA」シリーズを紹介。試乗エリアがパルコール嬬恋リゾート スキー場のため、車体設計などの比較ではなく、欧州仕様のE-Bikeの特性に絞って紹介する。
【当記事を読む前に必読】定格出力、最大出力、トルクの違い
まず、今回の記事を読む前に定格出力、最大出力、トルクの違いを覚えておこう。
定格出力は長時間連続して出力できる値。EUの電動アシスト自転車/E-Bikeの法律では、定格出力が最大250Wまで制限されている。そして、注意したいのは定格出力は実際の出力(最大出力)を表しているわけではない。
最大出力は、瞬間的に定格出力を越えて供給できる出力のこと。常時モーターの出力が出せるわけではないが、上り坂や加速時に高いケイデンスで漕ぐと最大出力に達するため、最大出力は重要だ。
また、定格出力が同じでも最大出力が違うのは様々なジャンルでよくあること。例えば電気自動車では日産リーフは、定格出力85KWだが、最大出力は40Kwhバッテリー仕様が110kW(150PS)で、62Kwhバッテリー仕様が160kW(218PS)発生する。
ここで問題となるのは、最大出力は殆どのE-Bikeブランドやサプライヤーが公開しない事。日本市場に関しては公式で公開しているのがSpecialized Turbo SLシリーズ(Turbo Creo SL、Turbo Vado SL、Turbo Levo SL)で、最大出力は240Wだ。
非公式では、某サプライヤーが製造している有名日本仕様E-MTB用ドライブユニットは定格出力は250Wだが、実は最大出力は600W近く出ている(広報担当者の実際の証言から)。その他の非公式情報では、殆どの定格出力250WクラスのE-MTB用ドライブユニットの最大出力は500Wほど出ているようだ。また、人間の出力に関しては、普通に加速すると250Wぐらいで、一般の人でも少し頑張れば、400Wから600W出すことができる。
トルクは、力学において、ある固定された回転軸を中心にはたらく回転軸の周りの力のモーメントのこと。E-MTB用ドライブユニットは最大トルク70Nm以上を叩き出すのが一般的だ。因みに、人間のトルクは最大クランク軸で約160Nm(論文 電動アシスト自転車用統合シミュレータの開発から:PDF)出ている。
E-Bikeではトルク=出力の意味になっているが実際は違うため注意だ。ママチャリなどに搭載されているドライブユニットの最大トルクは非公表だが、実は100Nmほど出ている(出典:日本経済新聞:電動自転車で欧州攻める ヤマハ発、3度目の正直)ことは、電動アシスト自転車やE-Bikeに詳しい人は知っているだろう。
しかし、最大トルク70NmクラスのE-MTB(電動アシストマウンテンバイク)と、最大トルク100Nmのママチャリタイプの電動アシストに実際に乗ると、最大トルク70NmクラスのE-MTB のほうが遥かにパワフルに感じる。これは、E-MTBは高回転で漕いでもアシストするため、出力が高くなるからだ。
出力(w)の式は、2π xトルク(Nm)×ケイデンス(rpm)/60。ママチャリタイプの電動アシスト自転車に採用されている2軸式ユニットは、脚をスポーツ自転車のように高速で漕いでもアシストしないため、トルクが少し少ないE-MTB用ユニットのほうが高回転で漕いでもアシストがあるため、高い出力でアシストする。
これを理解すればわかるがトルクとパワーは同じ意味ではない。しかし、E-Bikeの世界ではトルク≒パワーとなっている。これは、発進時ではトルクが重要になるのと、E-Bike業界はリーディングカンパニーであるヤマハ発動機に、ボッシュ、ブローゼ、ザックス、マーレ、ヴァレオといった世界的な自動車部品サプライヤーや、日本電産、TQ、Darfonといった世界的なエレクトロニクス関連企業、シマノ、SRサンツアーといった世界的自転車部品サプライヤーが参入するなど、競争が非常に激しい為、同じ定格出力、トルク、重量でパワー不足だと直に評価されなくなる。そのため、ライバル他社もモーター出力が大体同じになるため、トルク≒パワーと考えてもあまり問題にならない。
E-Bikeは定格出力、最大出力、トルクが数値化されている。人力自転車だと感覚で評論風の文が書けるが、E-Bikeは自動車やオートバイのように数字と理屈の世界のため、感覚で書くとモーター関係で理解できる人には一発でおかしいと思われてしまう。
例えば、カーオーディオや太陽光発電のメディアでは定格出力と最大出力の混同を警告しているが、E-Bikeの場合は平気で間違えるのが普通という異常事態となっている。
一例がSpecialized Turbo SLシリーズに搭載されている「Specialized SL1.1」。このドライブユニットは最大出力240Wと定格出力250Wのドライブユニットよりも低い出力を出している。しかし、検索すればわかるが、殆どのメディアが最大出力240Wを”定格出力”240Wと表記したり、”最高出力は240Wと他社のドライブユニットと遜色ない”と書く人もいるほど。仮に筆者がそのような明らかに間違えている内容を書いたら、サプライヤーに呼び出されて詰問されるだろう。
ある時、E-Bike製造会社や、サプライヤーにSpecialized SL1.1ユニットに関して聞かれることがあった。この時、筆者は「E-MTB用ユニット(定格出力250Wクラス)と比較して半分の出力しかないので、相対的に比較したらパワーは無い。楽を求めるのではなく、人力自転車で不快な領域を無くして、軽さで走っている。そもそもジャンルが違う。」と答えている。筆者はSpecialized SL1.1ユニット搭載車(Specialized Turbo Vado SL)を所有しているが、当然ながら最大出力240Wを理解して購入している。
定格出力、最大出力、最大トルクはあくまでも数字でそれ以上の価値はないが、数字の意味を知るのは、本格的なインプレ記事を書く時に必要な基礎学力のようなもの。定格出力、最大出力、最大トルクの違いが理解できた所でFANTIC XF1 INTEGRAを解説しよう。
FANTIC XF1 INTEGRAを解説、試乗
https://youtu.be/RtDiaubSivI
FANTICは1968年に誕生したイタリアのオートバイブランド。小排気量のスクランブラー、オフロードオートバイ、トライアルタイプのオートバイで有名になるが倒産するが復活するという歴史がある。近年では、2020年10月にヤマハモーターヨーロッパが、イタリア二輪車エンジン製造会社「モトーリ・ミナレリ」の株式をFANTICに譲渡したことでも知られているだろう。
オートバイだけでなくE-Bikeも展開しており、日本ではモータリング株式会社が取り扱いを行っている。ラインナップは、EU仕様の公道走行不可のフルサスペンションE-MTBの「XF1 Integra」シリーズ、ファットバイクタイプの「FAT INGETRA」と、日本国内の公道走行可能な街乗り向けのE-Bike「ISSIMO」を展開している。
https://youtu.be/_e7dYQxS-Tc
XF1 Integraシリーズに搭載されているドライブユニット「Brose Drive S」は、ドイツ「Brose」社が製造するドライブユニット。Broseは世界第4位の自動車サプライヤーとして知られており、パワーステアリングやブレーキ、トランスミッションなどに使われているモーターやアクチュエータなどを製造していることで知られている。Drive Sシリーズは定格出力250W、最大トルク90Nmを発揮するE-MTB用ユニットとして有名だ。
日本公式サイトではMax Watt(最大出力)250Wと書いてあるが、おそらく誤植。筆者はSpecialized Turbo VADO SLを所有しており、ロードバイクタイプのE-Bike「Turbo Creo SL」やフルサスペンションMTBタイプの「Turbo Levo SL」に本格試乗した事があるが、最大出力250Wというのは、あんなにパワフルではない。これは、FANTIC本国サイトで、Max Rated Power(最大定格出力)をMax Power(最大出力)と表現しているのもある。おそらく最大出力は500Wクラスだろう。
最大トルクは90Nmと非常に大きいため、発進時は日本国内で販売されているどんな公道用E-Bike用ユニットよりもパワフルに発進する。筆者は最大トルク35Nm(Specialized SL1.1)から最大トルク95Nm(日本未発売某日本製48V仕様E-Bikeユニット)まで乗ったことがあるが、E-Bike用ユニットでは一般的に同じ定格出力の場合、最大トルクが5Nm違うのは誤差、10Nm違うと1クラス違い、20Nmでは1ランク違う。
日本国内仕様のドライブユニットで発進時の力強さがXF1 INTEGRAシリーズに匹敵するのは、おそらくSTROKE CARGO TRIKE T4(プロトタイプモデル)が搭載していた、最大トルク95Nmを発揮する日本未発売某日本製48V仕様E-Bikeユニットだけだろう。
Brose...
自転車通勤から街歩きまで、カジメイクからレインポンチョ「サイクルモード ハイポンチョ」登場 Makuakeで先行販売
カジメイクは2月11日、日常に必要な雨具をゼロから見直して作った、家族のためのレインウェア(雨具)「サイクルモード ハイポンチョ」を発表。「Makuake」にて先行販売開始する。
「サイクルモード ハイポンチョ」は、レインコートのデザイン性と、レインポンチョの使い勝手の良ささ、レインスーツの防水性といった、それぞれのメリットを取り入れながら、使いやすさを融合したレインポンチョ。
リュックの上からでも羽織るだけですぐに足元まで全身をすっぽり覆うロング丈のレインポンチョの利点をそのままに、レインコートのように脱ぎ着できるフロントジッパーを装着することで、脱ぎ着を楽にしたのが特徴だ。
また、フードのツバ部分にはスナップボタンで取り外し可能な専用レインバイザーの装着ができる。
生地は、水を弾くだけの「撥水」素材ではなく、生地への浸水を防ぐ防水素材「TPUラミネート」を採用。また防水性だけでなく、加水分解等の経年劣化が従来よりも起きにくい利点もある。裏地はカジメイクが独自開発した凸凹を備えており、肌へのはりつきを軽減し、べたつき感のない快適な着心地を実現したとのこと。
子ども用の「ハイポンチョ キッズ」は、成長に合わせて着丈・袖丈が調節可能なスナップボタンを搭載。袖・裾を捲くり上げてスナップボタンで留めることで、着丈と袖丈の長さを調節することができる。
サイクルモードハイポンチョは、一般発売に先駆けて、「サイクルモード ハイポンチョ」と「ハイポンチョ キッズ」の先行割引予約販売をクラウドファンディングサービス「Makuake」にて行っている。
関連リンク
サイクルモードハイポンチョ Makuake販売サイト
自転車トラブルで有名なチェーン落ち E-Bikeならどう対応する?「Specialized Turbo VADO SL」編
自転車のトラブルで有名なのがチェーン落ち。チェーン落ちとは文字通り、走行中にチェーンが外れてしまうこと。ロードバイクやクロスバイク、マウンテンバイクなど、様々な自転車で発生する現象だ。
このチェーン落ちはE-Bikeでも発生する。ある時、筆者が所有しているE-Bike「Specialized Turbo Vado SL」で峠の下り坂を走っていると、漕げなくなったため止まってみたら、チェーンリングからチェーンが落ちていた事があった。
驚いたのがチェーンがフレーム側に落ちていたこと。人力自転車ならフレームとクランクの間には隙間があるため、チェーンが落ちても簡単に戻すことができるが、E-Bikeの場合、フレームとの隙間が殆ど無い物が多く、チェーンが落ちてしまうと、戻すことができない事もある。今回、筆者が遭遇したチェーン落ちの場合、手や工具でチェーンを戻そうとしても、チェーンがハマってしまい戻すことができなかった。
Specialized製E-Bikeは、新車購入時に1年間のロードサービスが付帯されているが、チェーン落ちで貴重なロードサービスを使う気にはなれないため、自力でチェーン落ちを直すことにした。
チェーン落ちを直すには、引っかかっている部分を外すのが簡単。車体をよく見ると、チェーンがモーターカバーに引っかかっていたため、モーターカバーを外して直すことにした。まず、最初にモーターが動くのを防止するために、スイッチを切る。
次はモーターカバーを外す。Specialized Turbo Vado SLのモーターカバーは、T25サイズのトルクスネジ1本を外すと、カバーを外すことができる。T25サイズのトルクスレンチは自転車専用の携帯工具に入っていることが多いため、別途購入する必要は殆ど無いだろう。
モーターカバーを外せば、チェーンに引っ掛かる物が無くなるため、簡単にチェーンを戻すことが可能だ。当然ながらチェーン落ちを直したらモーターカバーは装着しよう。
自転車のトラブルでも厄介なチェーン落ち。E-Bikeに関しては車種により対処法が異なるが、参考になったら幸いだ。もし、対処できない場合は自転車用ロードサービスに加入しておこう。
関連記事
https://www.cyclorider.com/archives/44176
文:松本健多朗