パナソニック、”ママチャリ”の知見で新市場へ 免許不要の特定小型「MU」で電動モビリティに安心と安定を

自転車国内最大手のパナソニック サイクルテックが、新たな電動マイクロモビリティ市場に本格参入する。2025年9月25日、同社初となる特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)「MU(エムユー)」を、本年12月上旬から発売すると発表した。価格は234,000円(税込)。電動アシスト自転車で長年培った技術と信頼を背景に、近年急速に市場が拡大する一方、安全性への懸念も指摘される特定小型原付の分野に、「安心・安全」という新たな基準を打ち立てる構えだ。

「MU」の最大の特徴は、多くの人が乗り慣れた”ママチャリ”を彷彿とさせる、またぎやすいU字型フレームと着座式のデザインだ。2023年7月の道路交通法改正以降、16歳以上であれば免許不要で運転できる手軽さから、電動キックボードを中心に特定小型原付の利用者は急増した。しかし、立ったまま乗る不安定さや小さな車輪が段差でふらつくといった点に不安を感じる声も少なくなかった。

パナソニックはこの点に着目。あえて自転車と同じ20インチのタイヤを採用し、路面の凹凸や段差に対する走行安定性を格段に向上させた。サドルの高さも調整可能で、乗車適応身長は141cm以上と小柄な人でも安心して乗れる設計となっている。これは、「くらし起点での製品設計」を掲げ、電動アシスト自転車市場で19年連続国内シェア首位を維持してきた同社ならではのアプローチだ。都市の短距離移動という新たなニーズに応えつつ、最も重視したのは利用者の安全だった。

「MU」はスロットル操作のみで走行し、ペダルを漕ぐ必要はない。最高速度20km/hの「車道モード」に加え、最高速度を6km/hに制限し、車体前後の最高速度表示灯が緑色に点滅する「歩道モード」を搭載。これにより、走行が許可されている歩道での通行も可能となり、利用シーンを大きく広げた。

心臓部であるモーターは定格出力250W。12度の坂道も登坂可能な力強さを持ちながら、加速度センサーが緻密に出力を制御することで、急発進を防ぎスムーズな走り出しを実現する。バッテリーは、同社の電動アシスト自転車で実績のある大容量の16.0Ahリチウムイオンバッテリーを採用。約5時間の充電で、最長約40kmの航続距離を誇る。バッテリーは取り外して室内で充電できるため、集合住宅などでも利便性が高い。

特定小型原付市場は、これまで新興のスタートアップ企業が牽引してきた側面が強い。その一方で、ユーザーからは「どこで修理すればいいのか」「アフターサービスは大丈夫か」といった購入後のサポート体制への不安の声が上がっていた。

パナソニックはこの課題に対し、既存の全国の自転車販売店ネットワークを最大限に活用することで応える。多くの部品を電動アシスト自転車と共通化し、扱いやすい設計にすることで、街の自転車店での修理やメンテナンスを可能にした。これはユーザーにとって絶大な安心感につながるだけでなく、販売店にとっても新たな商機となる。まさに、大手メーカーならではの強みを活かした戦略と言えるだろう。

一般社団法人日本電動モビリティ推進協会(JEMPA)によれば、2024年の加盟社による特定小型原付の販売台数は1万台を超え、市場は着実に成長している。しかし、その手軽さゆえの交通ルールの認知不足やマナーの問題も浮き彫りになっており、社会的な受容性をいかに高めていくかが業界全体の課題となっている。

パナソニックが自社の調査で、電動マイクロモビリティの利用に際し「交通ルールの明瞭化」や「法制度の整備」を求める声が多いことを把握している点も、今回の製品開発に影響を与えたことは想像に難くない。同社は販売時における交通ルールの周知徹底にも力を入れる方針だ。

電動キックボードとは一線を画す安定性と、全国規模での手厚いサポート体制を両立した「MU」の登場は、市場に「安全性」と「信頼性」という新たな競争軸をもたらす可能性が高い。これまで購入をためらっていた女性や高齢者層など、新たなユーザー層の掘り起こしも期待される。

MU(エムユー)|特定小型原動機付自転車|Panasonic

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