街・峠・山のすべてを走破する怪物E-MTB「TREK Rail 9.7」をインプレ【E-Bike】

2019年、E-Bike業界で一番注目を浴びていたのがTREKのフルサスペンションE-MTB「Rail9.7」だろう。

Rail9.7はカーボンフレームのフルサスペンションフレームに、2019年に世界一斉発売されたBosch Performance Line CXを搭載したフルサスペンションE-MTB。

価格は79万円(税抜)と、スーパークラスのE-Bikeだが、初回販売分が直ぐに完売した事で知られている。

人気により借用できる機会がうまく合わなかったが、ついにTREK Rail9.7を借用し、トレイル+公道でのインプレッションを行うことができた。

出典:trekbikes.com

まずはスタイリングを見てみよう。大容量バッテリーを搭載するため、人力MTBよりもダウンチューブが太いE-Bikeは、デザイン的な自由度が高く、様々なブランドが相違工夫をしている。

Rail 9.7の場合、下半分をブラックにしてダウンチューブを引き締めつつ、TREKのロゴを大きくすることで、ダウンチューブの太さを生かしたマッシブなデザインを実現した。

また、ヘッドチューブも従来の人力自転車よりも、より立体的な造詣にしている。

 

バッテリーの着脱はRemovable Integrated Battery(着脱式一体型バッテリー)機構を採用。

ドライブトレイン側からバッテリーを着脱する方式で、従来の下出し式よりも便利だ。また、バッテリーには格納式の取っ手が付いており、気軽に持ち運びができる。

バッテリーは大きいがバッグパック「ドイター・トランスアルパイン30」には、余裕で入る。大容量バッテリーのため高価格で重いが、頑張れば2個持ちでロングライドも可能だ。

充電器は525mlペットボトルと比較して、少し大きい程度だが、気軽に持ち運べるサイズ。ロングライドを行う時は積極的に持っていこう。

搭載されているドライブユニットはBosch Performance Line CX。「Uphill flow(坂を駆け上がる楽しみ)」が開発コンセプトのこのドライブユニットのスペックは、定格出力250W、最大トルク75Nmを発揮する。

この他にも、ライダーの踏力の強弱に応じた最適なアシスト力を自動で提供してくれるeMTBモードを搭載しており、従来のE-MTBが苦手とする、滑る斜面や狭いスペースでのターンなどテクニカルな場面でも、意のままにバイクコントロールが可能なのを売りにしている。

車体や部品構成も注目だ。カーボンフレームにより車体重量は21.8キロと一般的な上り系E-MTBの中で軽く加速と減速をそれぞれ別の力にできるサスペンション調整が可能な「アクティブ ブレーキング ピボット(ABP)」も搭載。

部品は、フロントサスペンションフォーク「RockShox Yari RC」に、SRAM NX Eagle 12段変速、レバーで簡単にサドル位置が上下調整可能なドロッパーシートポストも採用した。タイヤはBontrager XR5 Team Issue, Tubeless Read120 tpi, 29×2.6インチだ。

ディスプレイユニットはBosch Purionでディスプレイとスイッチユニットが一体になったタイプ。

シマノ・STEPSのディスプレイユニット「SC-E6010」「SC-E7000」「SC-E6100」の液晶ディスプレイと比較すると簡素でシンプルなディスプレイユニットだ。

表示できるのは速度、アシストモード、航続距離、走行距離、総走行距離と少なく、シマノ・STEPS系(SC-E6010、SC-E7000、SC-E6100)なら用意されている時計やケイデンス表示も無い。

スイッチは一見すると使いやすいように見えるが、ボタンの突起が無い平坦なデザインのおかげで、手袋を装着した状態で走ると+と-の位置がわかりにくい。

また、スイッチを押した感覚もわかりにくく、スイッチを押した時のビープ音もないため、ボタンを押したと思ったら反応しない場合や、上り坂で遅くなり体調が悪くなったと思ったら、いつのまにかモードが変わっていたこともある。

この部分に関してもシマノ・STEPSのスイッチ(SW-E6010等)より劣る。Purion2が登場した時は、車のステアリングスイッチのように突起を付ける等、改善してほしい。

ただ、Bosch E-Bike SystemにはKiox等、日本未発売のユニットがあり、日本でも導入されたら大幅に改善する可能性がある。

ディスプレイやスイッチに関しては不満がある一方、ドライブユニット「Performance Line CX」は、素晴らしい完成度だ。

Performance Line CXは、サイクルモード2019での試乗コースや、トレイルアドベンチャーよこはまで体験したが、リアルな公道やトレイルでも印象は変わらず、レスポンスやeMTBモード、駆動音等のレベルが高く、執筆時点で日本トップと言えるパフォーマンスを持っている。

Performance Line CXのレスポンスを簡単に表すと、片足4分の1漕ぎでアシストが反応するレベルだ。

人力自転車は両足3分の1漕ぎで発進するのが一般的で、下手な人力自転車の反応がいい。この反応の良さに関しては人の好みがあり、人力自転車に近いフィーリングを採用しているのもある(シマノ・STEPS等)。

Performance Line CXの特徴とも言えるeMTBモードは、必要な力が欲しいのを意のままに提供するため、人工筋肉と言えるほど相当緻密な制御だ。

最初に驚いたのが人力MTBでは走る気が起きないトレイルが走れる事。上り坂はやや斜めになっており、固まっている地面は湿っていて滑りやすいだけでなく、右には窪みがある。窪みに嵌るのが怖いので左に寄ろうとすると、壁がありハンドルが当たってしまう。

人力MTBだと怖くて、歩くような道だが、Rail9.7にとっては”走れる道”で、タイヤがスリップせず、なんとも無く安心して走行できる。

車体重量も21キロ台と、大容量バッテリー搭載型E-MTBでは軽い方だ。

一般的なアルミフルサスペンションフレームのE-MTBの車体重量は23キロが多い。この2キロの差は大きく、長い間走行していると、23キロのフルサスペンションE-MTBは腕に疲労感が残るが、21キロ台のRail9.7だと腕の疲労感が残りにくい。車体重量の軽さは押し歩き時も効果がある。

カーブを曲がる感覚は、「大容量バッテリー(500Wh)を搭載した上り系E-MTB」としては良好だ。

フレーム上にバッテリーが鎮座したアウトチューブタイプのE-Bikeは、重心がズレるためか、カーブで車体を倒した時うまく倒れず、車体が起き上がろうとする感覚がある。

一方、Rail9.7のようにバッテリーをフレーム内に内蔵したインチューブタイプはアウトチューブタイプと比べて重心位置が変わらないのか、車体は重いがきれいに倒れる。

Rail9.7のホイールサイズは29インチと大きいため、カーブを曲がる時は27.5インチのように、何も考えず振り回せる感覚は薄いが、29インチならではの高い走破性は魅力的だ。

前後サスペンションのストローク量もフロント160ミリ、リア150ミリと長く、滑らかに動くため、普通なら避けて通過するゴロゴロとした大きい石ですら、乗り越えてみようと思わせるほどの力を持っている。

そして、人力MTBではできない遊びもTREK Rail 9.7なら楽しむ事が可能だ。

例えば、写真のような人が歩くレベルの急坂でも、脚付きと後転防止のためにドロッパーシートポストを限界まで下げれば、易易と上ってしまう。

また、片足4分の1漕ぎでアシストするのを活かして、サドル高を下げて、片足は地面に付きつつ、もう片足で発進するという、E-MTBならではの走り方もできる。

Rail 9.7に乗ると、どんな道でも走れてしまうような怪物E-MTBに感じてしまうが、過信すると足元をすくわれるため注意が必要だ。

Rail 9.7に装備されているタイヤの幅は2.6インチと、あくまでもトレイルを高速走行するためのタイヤ幅で、万能なわけではない。歩きですら、ずり落ちそうな場所ではさすがのeMTBモードでもスリップして進めない。

性能の良さに過信して、乗り手の力量を越えた運転を行うとしっぺ返しを受けるので気をつけよう。

Rail 9.7に限らず、フルサスペンションE-MTBのインプレッションはトレイルを走っただけの評価が殆どだが、モーターがついているE-MTBだからこそ舗装路のインプレッションも必要だ。

舗装路の走行性能が良ければ、別のトレイルに向かう際のアプローチも効率的に、楽に行くことができる。

今回、サイクリングロードや峠道も走り、トレイルの走破性と同じくらい驚いたのがフルサスE-MTBと思えないほど速い事。

平地舗装路巡航速度は筆者レベルの場合、平地で時速25~26キロ以上(参考としてアルミフルサスE-MTB「BESV TRS2 AM」を筆者が乗った時の平地舗装路巡航速度は時速23~24キロ)。そこから、更にペダルを踏み足して時速30キロで走るのも容易だ。

日本の法律では時速24キロを超えるとアシストが切れるが、時速25~26キロで巡航できるのは、車体が優秀だからだ。

いつもなら「アシストは時速24キロギリギリまで行うのがベスト」と語ってるが、Rail9.7は車体性能が良いので「モーターを使わせたくなので舗装路平地ではアシスト速度を22キロに落とし、電池の消耗を抑えて省エネ運転したい」と思わせるほどの車体性能を持っている。

これにより、日本のE-Bikeが遅いという意見は法律の問題ではなく、車体設計が駄目なだけという事と、遅いE-Bikeにしか乗ったことが無いというのが露呈した。

Performance Line CXは、時速24キロまできっちりとアシストがかかるため、ゆるやかな上りなら辛いが頑張れば時速24キロで走行可能。峠の上り坂を一定の速度で走る場合、筆者レベルの脚力では時速18キロが限界。それ以上の速度を出そうとするとモーターのトルクが薄くなり、人力の負荷が強くなってしまう。もっとも、時速18キロと言っても、人力自転車では時速9キロで走行する場所なので、人力と比較すると遥かに速い。因みに写真のような砂利道の上り坂でも、舗装路と速度は変わらず時速18キロで上ることが可能だ。

サイクリングロードや街中では、信号待ちではサドルを下げて停車しやすくできるドロッパーシートポスト、パンクしにくい太いタイヤに、リラックスして運転できる高い直進安定性、意のままにアシストしてくれるeMTBモードを活かす事で、ゆったりとした感覚で走行できる。

直進安定性が低く、細いタイヤでシビアな運転を求めるロードバイクで街乗りするよりも、パンクの心配が少なく、道も選ばないで走行でき、楽々発進できるため街乗りも楽しい。

また、Rail 9.7はサイドスタンド装着台座もあるため、駐輪にも困らない。但し、価格が79万円と高いため気軽に駐輪できないのがネックだ。

TREK Rail 9.7を一言で表すと「1台で何でもできる公道用E-MTBのベンチマーク」。

Rail 9.7を購入すれば、街乗り、サイクリングロード、峠、林道、トレイル、スパイクタイヤを履けば雪道も走る事ができる。

従来の人力自転車は、これ1台を買えば何でもできるというのは無かったが、E-MTBに登場により何でもできる究極の公道用自転車の徴候はあり、TREK Rail 9.7でついに実現した。

ネックは税抜79万円という価格。Rail 9.7と同レベルのE-MTBが低価格で購入できるのは、長い時間が必要だろう。それが嫌なら買うしかない。

TREK Rail9.7のスペック

  • フレーム:OCLV Mountain Carbon main frame & stays, Removable Integrated Battery (RIB), tapered head tube, Knock Block, Control Freak internal routing, magnesium rocker link, Motor Armor, Mino Link, ABP, Boost148, 12mm thru axle, 150mm travel
  • フロントフォーク:RockShox Yari RC, DebonAir spring, Motion Control RC damper, e-MTB optimized, tapered steerer, 44mm offset, Boost110, 15mm Maxle Stealth, 160mm travel
  • 重量:21.83kg(M Size)
  • ブレーキ:Shimano hydraulic disc, MT501 lever, MT520 4-piston caliper+Shimano RT76, 203mmローター
  • ギア(前):SRAM X1 1000, 34T, 165mm
  • ギア(後):SRAM PG-1230 Eagle, 11-50, 12 speed
  • フロントホイール:Bontrager Line Comp 30, Tubeless Ready, 6-bolt, Boost110, 15mm thru axle
  • リアホイール:Bontrager Line Comp 30, Tubeless Ready, 6-bolt, Shimano 8/9/10 freehub, Boost148, 12mm thru axle
  • タイヤ:Bontrager XR5 Team Issue, Tubeless Ready, Inner Strength sidewall, aramid bead, 120 tpi, 29×2.60”
  • ドライブユニット:Bosch Performance Line CX(定格出力250W、最大トルク75Nm)
  • アシスト方式:ミッドドライブ
  • バッテリー:Bosch PowerTube500  500Wh
  • 充電時間:約4.5時間
  • アシストモード:4段階(ECO/TOUR/eMTB/POWER)
  • 航続距離:140km/101km/99km/79km※Bosch E-Bike Systemから引用

文:松本健多朗

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