E-Bikeのパワー(馬力)はどれだけ出ているのか? 馬力競争は起こっているのか徹底解説

E-Bikeの力強さを表すのによく表現されているのがトルク。E-Bikeのトルクに関しては、マウンテンバイク用のドライブユニットになると、85Nmなど、非常に強いトルクのモデルも存在する。一方で、E-Bikeで注目されないのは出力だが、実は自動車やオートバイと同じくE-Bikeでも重要だ。今回はE-Bikeの出力や、欧州市場で出力競争が発生しているのか紹介する。

定格出力、最大出力、トルクの違い

E-Bikeのパワーに関して紹介する前に、定格出力、最大出力、トルクの違いを覚えておこう。

定格出力は長時間連続して出力できる値。EUの電動アシスト自転車/E-Bikeの法律では、定格出力が最大250Wまで制限されている。注意したいのは定格出力は実際の出力である最大出力を表しているわけではない。

最大出力は、瞬間的に定格出力を越えて供給できる出力のこと。常時モーターの出力が出せるわけではないが、上り坂や加速時に高いケイデンスで漕ぐと最大出力に達するため、最大出力は重要だ。

トルクは、力学において、ある固定された回転軸を中心にはたらく回転軸の周りの力のモーメント。E-Bikeでは、カタログスペックで最大出力を表さず、最大トルクだけを表して、アシスト力の強さを表しているのが一般的となっている。

E-Bikeの場合、トルクは発進時や脚を遅く漕ぐ低いケイデンスで重要で、高速域や脚を速く漕ぐ高ケイデンスでは最大出力が重要になる。

E-Bikeの最大出力はどれだけ出ているのか

E-Bikeの最大出力が注目されないのは、メーカー側がカタログスペックに出力を公開しないのが大きな理由だろう。世界的に殆どのメーカーは、定格出力だけを公開し最大出力は非公表な所が多く、FANTICやBHなどの一部海外メーカーは、Max “Rated” Power(最大”定格”出力)Max Power(最大出力)と誤表記している所もある。

今回は、メーカーが公式で公開していないが情報の真偽の確認が取れているのを非公式情報として、メーカーが公式サイトやプレスリリースで公開しているのを公式情報として紹介する。因みに、情報は得ているが真偽が確認できない情報は紹介しない。

Bosch Performance Line CX(出典:https://www.bosch-ebike.com/jp/)

日本仕様に関しては、公式情報ではSpecialized SL1.1が最大出力240W。非公式情報ではBosch Performance Line CXが最大出力600W近く、Bosch Active Line Plusが最大出力400W台。

出典:https://www.maxongroup.co.jp/

欧州仕様の場合、公式情報では、maxon Bikedrive Air(記事)が、最大出力220W。Specialized SL1.1が最大出力240W。FAZUA EVATION Ride 50(URL)が最大出力350W。Shimano EP8(記事)が500W、Specialized Turbo Levo(記事)に搭載されているSpecialized Turbo Full Power2.2が最大出力565W。Forestal Eon Drive(記事)が最大出力800W。非公式情報ではBAFANG M500が最大出力780W(欧州仕様FANTIC ISSIMOのメーター値)となる。

アメリカ仕様の場合、公式情報では、Specialized SL1.1が最大出力240W。Yamaha PW-SEが最大出力500W。Yamaha PW-X2が最大出力500W(URL)となる。

E-Bike業界ではパワー競争は発生しているのか

某E-Bikeサプライヤー広報曰く「欧州法での定格出力250W規制はザル法で、実質的に最大出力制限になっていない」とのこと。実際、定格出力250Wでも最大出力が500Wを超えるドライブユニットは数多くある。そこで気になるのが、E-Bike業界ではパワー競争は発生しているのかだろう。

この件に関して、某E-Bikeサプライヤー広報担当曰く、E-Bikeの本場である欧州ではパワー競争はあまり行われなくなったとのこと。その理由は、むやみに最大出力を上げても使う機会が無いためだ。

例えば、欧州仕様のFANTIC ISSIMOは、メーター読みで最大出力780Wを出すことができるが、実際は最大出力を出す場面は非常に少ない。これは、アシスト比が大きい海外仕様は最大出力に達する前に、アシストが切れる時速25キロメートルに到達してしまうためだ。

出典:https://www.agazzinibike.it/

海外では、公道走行不可でオートバイのようなE-Bikeがある。例えば、Agazzini BikesのENDURO2は最大出力4000W、最大トルク110Nmを発揮するドライブユニットを搭載し、ペダルを漕がない自走でき、4秒で時速50キロまで達する公道走行不可のE-Bike。これも「欧州での定格出力250W規制はザル法で、実質的に最大出力制限になっていない」のを考えると、定格出力250Wと表記し、最大出力4000W、最大アシストスピード25キロに設定し、ペダルアシストだけの走行とすれば、EU内の公道走行は可能だろう。しかし、アシストの制限速度が時速25キロメートルだと、いくらバワーがあっても役に立たず、最大出力に達する前に、アシストが切れる時速25キロメートルに到達してしまい、逆にパワーを出すために大きくなったドライブユニットが贅肉となり邪魔になる。

出典:https://global.yamaha-motor.com/business/e-bike-systems/products/pw-x3/

そのため、アシスト速度が時速25キロで抑えられている欧州市場では、ドライブユニットを大きくしてでもパワー競争を行うより、今までと同じパワー・トルクと出しつつ、軽量化、コンパクト化を両立するのが主流となっている。これは、モーターをコンパクトにすることで、ロードクリアランスの向上、車体重量の削減、車体設計が容易になるからだろう。

因みに、日本国内仕様に関しては、アシストが時速10キロメートルまでで最大2倍で、時速10キロメートルを超えるとアシスト比が小さくなるため、時速16キロ以上の中速から高速領域で最大出力を出し切る事は難しい。

E-Bikeのスペックで最大出力よりもトルクが重要視される理由

ドライブユニットによって最大出力は違うが、実際にはE-Bikeのスペックは、最大出力よりもトルクが重要視されている。この理由は、最大出力だけ公開すると比較にならないからだ。

例えば、同じ最大出力500Wでも、パワー重視でトルクが少ない高回転仕様、パワーとトルクを両立したバランスが取れている仕様、パワーよりもトルクを重視したトルク重視だと、同じパワーでも全く特性が異なる。そのため、最大出力だけで選んでしまうと失敗してしまう。

また、EU法のアシスト速度の関係で、いくらパワーを出しても限界があるため、最大トルクだけで選んでも現状では問題無いようだ。

E-Bikeのカタログスペックは最大出力と最大トルクを両方書くべき理由

現時点のE-Bike業界は最大トルクだけを表記するのが一般的だが、軽量E-Bikeの登場により、最大出力を公開しないと、その車種の特性が解らないという状況になっている。

ここで、海外市場を中心に販売されている軽量E-Bikeの出力、トルクをざっと紹介しよう。

出典:https://www.specialized.com/jp/ja

Specialized Turbo Levo SLはSpecialized SL1.1ユニットを搭載。定格出力240W、最大出力240W、最大トルク35Nm。

出典:https://www.lapierrebikes.com/

Lapierre eZestyはFAZUA EVATIONドライブユニットを搭載。定格出力250W、最大出力350W、最大トルク50Nm。

出典:https://www.r-raymon-bikes.com

R RAYMON AirRay EはYAMAHA PW-X2をR RAYMONがチューニングしたドライブユニットを搭載。定格出力250W、最大出力不明、最大トルク50Nm。

出典:https://www.orbea.com/int-ja/ebikes/mtb-fun/rise

Orbea RISEはシマノEP8をOrbeaがチューニングしたEP8 RSドライブユニットを搭載。定格出力250W、最大出力不明、最大トルク60Nm。

出典:https://forestal.com/en/products/siryon

Forestal SiryonはBAFANGと共同開発を行ったForestal Eon Driveドライブユニットを搭載。定格出力250W、最大出力800W、最大トルク60Nm。

この中からE-Bikeを選ぶ際、定格出力とトルクだけで選ぼうとすると、想像していたE-Bikeとは違うモデルを購入することになる。例えば、Lapierre eZestyとForestal Siryonを比較すると、最大トルクは10Nm程度の違いしかないが、最大出力は2.2倍違うため、カタログスペックですら全く違う特性なのがわかるだろう。

E-Bikeのスペックはブランドによって表記はまちまちだが、自動車やオートバイのように最大出力/rpm、最大トルク/rpmの表記になるのが理想だろう。

文:松本健多朗

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