革命のE-ロードバイク「Specialized Turbo Creo SL」をショートインプレ【E-Bike】

電動アシストスポーツ自転車「E-Bike」の中でも、難しいジャンルがロードバイクタイプのE-Bike「E-ロードバイク」と言われている。モーターとバッテリーを搭載したE-Bikeは、車体重量が重くなるため、アシスト外の走行性能が人力自転車よりも落ちてしまうからだ。そのため、E-Bikeと言えば、クロスバイクタイプの「E-クロスバイク」やマウンテンバイクタイプの「E-MTB」が主流だ。

そんな中、Specializedから電動アシストロードバイク「TURBO CREO SL」が登場した。TURBO Creo SLはドライブユニットからフレームまで軽量化することで、最軽量モデルは12.2kgを達成したE-ロードバイクだ。今回、 埼玉県入間郡越生町の「オーパークおごせ ビオリゾートホテル&スパ」で行われた、TURBO Creo SLの試乗会「TEST THE TURBO in 関東(埼玉) 」で、Turbo Creo SL COMP CARBONに試乗した。

リンク:MISSION CONTROLMISSION CONTROLに関するFAQ(Specialized)

今回の記事を読む前に注意してほしいのは、TURBO Creo SLに搭載されている「MISSION CONTROL」の調整を行っていない事。MISSION CONTROLは、スマートフォンで、TURBO Creo SLのアシストレベルや最大パワーなど、モーターの特性をカスタムできるだけでなく、走りたい距離や時間を設定し、モーターの出力とバッテリーの使用量を調整できるアプリ。本格的なインプレッションを行う場合、MISSION CONTROLを完全に理解して行う必要がある。今回、MISSION CONTROLアプリは使用できなかったため、大まかな内容だと踏まえて読んでいただきたい。

E-Bikeとは思えない自転車らしい軽量な車体重量と前後バランス

TURBO Creo SLに乗った最初の印象は、E-Bikeに乗っていると感じなかった事だ。押した時の感覚や持ち上げた感覚、実際に乗車してカーブを曲がった時の感覚は、重いバッテリーが搭載していると感じず、まるで人力ロードバイクに乗っている感覚だった。これは、ドライブユニット等、様々な部品を軽量にしただけでない。バッテリーを搭載していない感覚は車体重量だけでなく、前後重量バランスも良いのだろう。そのため、これだけ細いタイヤ(700×28C)を装着しても、前輪荷重の過大による不安定さが無い。

バッテリーを搭載していない感覚で真っ先に思い浮かぶのがヤマハ・YPJ-Rだ。しかし、TURBO Creo SLのバッテリー容量は320WhとYPJ-R(60Wh)よりも、5倍以上の大容量のバッテリーを搭載している。Bosch PowerPack300(300Wh)よりも大容量のバッテリーを搭載していても、バッテリーの重さを感じないのは、バッテリーを薄くして重心を下げているのもあるだろう。

バッテリーの着脱はドライブユニットを外す必要があり、充電は車体にケーブルを指す方法を採用しているため、充電場所が限られる。このあたりは、軽量化とバランスを追求したことで犠牲になった所だ。

グラベルロードの設計を採用したTURBO Creo SL

TURBO Creo SLシリーズのフレーム設計は、Open Roadジオメトリーを採用している。これは、グラベルロードバイク「DIVERGE」シリーズに採用されている設計で、機敏な走りとハイスピードでの安定した操作性や安心感を両立し、オンロードからグラベルまで幅広い用途に対応している。タイヤクリアランスは、700Cで最大で42mmのタイヤが装着可能。また、フェンダーを使用した場合は、最大で38mmのタイヤに対応している。650Bホイールの使用もでき、その場合、最大で47mmのタイヤを履くことが可能。フロントフォークはFuture Shock 2.0を搭載している。

ギアはフロント46T、リアスプロケットは11-42T。電動アシストロードバイク(E-ロードバイク)では、一般的なロードバイクと同じギア(前50-34T、後11-28T等)を搭載する場合が多い。しかし、アシスト切れからの加速を考えると、従来の人力ロードバイクと同じギアでは加速が鈍くなるため、グラベルロード用のギアが合っているだろう。

低トルク、軽量ドライブユニット「Specialized SL1.1」の特性は?

TURBO CREO SLに搭載されている「Specialized SL1.1」は、最大出力240W、最大トルク35Nmと、一般的なE-Bikeよりも低いトルクを採用している。スルスルと進むアシストは、人力自転車に乗っていて後ろから力強く押されている感覚に近い。

今回、最大アシストで走行したが、フラットなアシスト力を維持し続けながら走行する感覚だった。アシストが切れる速度までフラットにアシストするため漕ぎやすく、アシストが切れても車体重量が軽いため加速でき、従来型E-Bikeには無い特徴を持っている。一方で、高トルクユニットを搭載したE-Bikeとは違い、トルクに頼って楽に走れるわけではなく、人力を使う比率が高い。また、上り坂では従来型E-Bikeにある「坂道を駆け上がる快感」は少ない。

SHIMANOやBOSCH、YAMAHA等の高トルクユニットを搭載したE-Bikeの価値は落ちるか?

Specialized SL1.1の登場で、ShimanoやBosch、Yamaha等の高トルクユニット+大容量バッテリーを搭載したE-Bikeよりも、Specialized SL1.1のような低トルクユニット+小型バッテリーが良いという意見もある。しかし、高トルクユニット搭載E-Bikeと、軽量・低トルクユニットのE-Bikeは想定しているユーザーが違うため比較にならない。

BESV TRS2 AM(Shimano STEPS E8080/最大トルク70Nm)
TREK Rail9.7(Bosch Performance Line CX/最大トルク75Nm)

主流の高トルク型E-Bikeの一番の大きな利点は幅広い使い方ができる事。高トルクを活かして楽に走れるだけでなく、人力では厳しい急坂を登る事ができ、ヒルクライムでは人力スポーツ自転車よりも高回転で漕いで追い込むことも可能だ。フルサスペンションE-MTBでも高いトルクのお陰で、舗装路でもスタートダッシュは人力ロードバイクよりも速く、平地は23km/hで巡航し、上り坂は18~19km/hで人力ロードバイクを抜いていく事ができる。E-Bike初心者や人力自転車よりも自由に動き回りたい、上り坂を駆け上がりたいのなら、主流の高トルクユニットがベストだ。

Specilized Turbo Levo SL(Specialized SL1.1/最大トルク35Nm)

軽量・低トルクユニットのE-Bikeは、従来型E-Bikeとは違い人力自転車の発展型と言える。今回、舗装路でTurbo Levo SLに試乗することができたが、高トルクユニットを搭載したフルサスE-MTBのように、上り坂を18~19km/hで走行し、人力ロードバイクを抜いていくのは難しいだろう。その一方で、従来のE-MTBには無い車体のバランス感が良く、舗装路ではなくMTBコースで試乗したいと感じた。

高トルク型E-Bikeで人力を超えた自由な走りを求めるか、軽量・低トルク型E-Bikeで人力自転車のような自転車を振り回すスポーツライドを求めるかは人それぞれ。Specialized SL1.1ユニットが登場しても、ShimanoやBosch、Yamaha等の高トルクユニットを搭載したE-Bikeの価値は落ちない。もちろん、Specialized SL1.1の軽量・低トルクユニットの価値が落ちるわけではない。Specialized SL1.1ユニットは、ロードバイク、マウンテンバイクに関わらず、人力スポーツ自転車を好むニッチなユーザーに向けた物なので、既存の大手E-Bikeユニットとは直接のライバルにはならない。

そして。高トルクユニットのE-Bikeと軽量・低トルクユニットのE-Bikeを比較して購入を考えている場合、両車とも絶対に試乗を行うこと。キャラクターが全く違うため、求めている物を間違えて購入すると確実に失敗する。

Turbo Creo SLの登場は人力ロードバイク衰退の始まりか

2010年に世界で各社から登場したE-Bikeは、登場してからたった10年で、人力ロードバイク好きを唸らせるE-ロードバイクが登場した。E-Bikeを感じさせない車体バランス、フラットにアシストを行う軽量ドライブユニット、アシスト外でも加速していく感覚は、人力ロードバイクは終わったと思わせるほどの衝撃を与えた。レース用機材や一部の超長距離ライドを行う人に向けた人力ロードバイクは細々と残るが、ホビーとして高額な人力ロードバイクに乗る趣味は衰退するだろう。

価格は、今回試乗したTurbo Creo SL COMP CARBONが737,000円(税込み)。一番安いアルミフレームのCreo SL E5 COMPが550,000円(税込み)。同価格のハイエンドロードバイクとTurbo Creo SLのどちらを選ぶか?と聞かれたら、サイクルツーリングが趣味の筆者は迷わずTurbo Creo SLを購入する。

公式サイト:https://www.specialized.com/

リンク:e-Bike Creo SLに乗ってみよう! TEST THE TURBO(テスト・ザ・ターボ)

Specialized Turbo Creo SL COMP CARBONのスペック

  • フレーム:FACT 11r carbon, Open Road Geometry, front/rear thru-axles, fully integrated down tube battery, internal cable routing, fender/rack mounts, Boost™ 12x148mm
  • フロントフォーク:Future Shock 2.0 w/ Smooth Boot, Boost™ 12x110mmmm thru-axle, flat-mount disc
  • 重量:-(参考値:最上級モデルのS-WORKSで12.2kg)
  • ブレーキ: Shimano GRX 810
  • ギア(前):Praxis, 46T, 110BCD
  • ギア(後):SunRace, 11-42, 11 speed
  • フロントホイール:DT R470 Boost, 12x110mm
  • リアホイール:DT R470 Boost, 12x148mm
  • タイヤ:Specialized Turbo Pro, 700x28mm
  • ドライブユニット:Specialized SL1.1(最大出力240W、最大トルク35Nm)
  • アシスト方式:ミッドドライブ
  • バッテリー:内蔵式 320Wh
  • 充電時間:約2.5時間
  • アシストモード:3段階(ECO/SPORT/TURBO)※Mission Controlアプリでアシスト力を変更可能
  • 航続距離:最大130km

文:松本健多朗

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