折りたたみ自転車 特集

上場ネット企業役員を辞め、折りたたみ自転車に挑む小林正樹氏が語るirukaの秘話と拘り

2019/04/17

理想の折りたたみ自転車を作り、多くの人にその魅力を広めたい――。そんな思いから、インターネット広告代理店「株式会社オプト」の取締役CFO(最高財務責任者)を辞め、「株式会社イルカ」を設立した小林正樹氏。約10年間にわたって折りたたみ自転車の開発を続け、ついに2019年5月にirukaが発売される。リリースに先立ち、折りたたみ自転車irukaの開発秘話や、拘った所を語ってもらった。

開発に10年かかった理由

-irukaは自転車発売までに10年ほどかかりましたが、時間がかかった理由を教えていただけますでしょうか。

基本設計にも一年以上かかりましたが、次に問題になったのが工場探しです。irukaを開発する際、台湾や中国の自転車工場に協力を打診しました。

しかし、殆どが「無理」だという反応でした。irukaは独特な機構を採用しているため、開発・製造は難しいという理由です。

工場の社長に設計データやスケルトンモデルを見せたところ、気に入ってくれ、開発を引き受けてくれた工場もありましたが、実際に進めると上手くいかず、また工場探しに戻ることがありました。

そんな状態が7年続き、最後に「絶対にできるのでやろう!」という工場が現れました。そして3年ほどの開発期間を経て、ようやく完成したのです。

-開発で最も苦労したのはどんなところでしょうか。

構造です。irukaはフレーム中央にスリット(穴)があり、折りたたみ時はそこに車輪を入れる構造を採用しています。そのため、折りたたみ状態で移動するときに、車輪を転がして移動することが可能なのです。

しかし、僅かな誤差でも、折りたたみ時に車輪がフレームと干渉してしまう問題が発生しました。根元ではコンマ0何ミリの誤差でも、先端に近づくと大きな誤差になるのです。そこで設計から生産まで見直しを行い、ようやくクリアでき市販化が可能になりました。

その他にもフロントフォークの折りたたみ構造やハンドルポストの設計を変更・改良し、剛性を強化することで、安定したハンドリングを実現するなど、細かい所にも拘っています。

 

-開発期間中、他社からirukaのような折りたたみ自転車が先に登場しないか、不安になりませんでしたか?また、開発を諦めようと思ったことはありますか?

開発に失敗し、工場探しに戻るときが何度かありましたが、やはり落ち込みました。しかし、irukaを作るのを辞めようと思ったことは一度も無かったです。ここまで作るのが大変なら、irukaみたいな折りたたみ自転車は簡単に出てこないだろうと感じたのです。そういう意味で、不安はありませんでした。

機能とデザインを両立するためにこだわった所

-irukaは感性に訴えるカッコよさを重視するとブログに書いてありましたが、どのような部分を拘ったのか教えてください。

一般のスポーツサイクルユーザーだけでなく、自転車に興味がない人でも楽しんでもらえるよう、様々な拘りがあります。

例えば、折りたたみ時のデザイン。一般の折りたたみ自転車は、折りたたみ時の奥行きを小さくするため、前後の車輪が重ならないデザインとなっています。

しかしirukaは、前後輪が重なって折りたためるようになっています。これは、折りたたんだときに車輪で移動するためだけでなく、左右対称で美しく見えるからです。形状も、縦横比が黄金比になり、視覚的にも安定して映るようになっています。

出典:iruka

-irukaは車輪中央部に穴が空いているため、雨天走行は服が汚れやすいと思います。泥除けを装着することは可能でしょうか。

可能です。量産車ではダボ穴をつけ、汎用品の泥除けがつけられます。将来的にはiruka純正品の泥除けも考えています。

-部品に関して拘った所はありますか?

一般ユーザーにも街乗りを楽しめる部品を採用した所です。例えば変速機は、内装変速機「シマノ・アルフィーネ 8S」という、内装8段変速機を採用しました。外装変速機は軽量で価格も安く、スポーツ走行では便利です。しかし、停車中に変速できない、細かい調整が必要など、街乗りでは不便な所もあります。一方、内装変速機は変速ギアが露出していなく、停車中でも変速でき、頻繁にメンテナンスをしなくても良いため、街乗りでは計り知れないメリットがあると思い採用しました。

-車体には、外装変速機が装着できる台座がありますが、装着している理由を教えてください。

外装変速機の台座は装着していますが、どうしても外装変速機にしたいユーザーに向けて装着しました。普通に外装変速機を搭載した場合、チェーンラインの関係で全段動かすことができないため注意してください。

-「シマノ・アルフィーネ 8S」を採用した理由を聞かせてください。

変速時のタッチや精度がよく、スポーティに走れるのと、サイレントクラッチが装備されており静かに走れるため採用しました。

アルフィーネには内装11段変速仕様があります。しかし、irukaは街乗りを重視した折りたたみ自転車というコンセプトを考えると、11段仕様はギアの段数が多く、高価なため採用を見送りました。

-ブログではirukaは1車種1カラーのみで勝負するとのことでしたが、その理由は何でしょう。

irukaはこれからデビューする後発の折りたたみ自転車なので、アイデンティティを持たせるために、1車種1カラーでスタートしたいと思いました。ただ、将来的には限定カラーを発売することも検討したいと考えております。

-iruka「iPad」などに通じる、他の自転車にはないクールなカラーリングですが、どういった理由でからでしょうか?

irukaのカラーリングに関してはアルマイトを採用しました。この塗装を採用した理由は、塗装では出せない美しさが出るのと、ひっかき傷でも剥がれないためです。

-2018年4月にLORO世田谷で試作車(iruka T7.1)を公開したとのことですが、評判はいかかでしょうか。また、なぜ市販前に先立ち公開したのでしょか。

長年ブログやSNSで開発までの工程を公開していたため、早くみたいという人が多く、試作車を公開しました。LORO世田谷の方の話によると、動員数は異例なほど多かったとのことでした。評判として、折りたたみのギミックと走行感が良いという声が多くありました。

-irukaのカタログ写真には、日本的な物を加えている写真が多いですが、その理由を教えてください。

出典:iruka

irukaはWEBサイトのドメインをiruka.tokyoにするなど、東京発のブランドであることを売りにしています。そのため、東京情緒がある写真を採用しています。

-海外市場は検討していますか?

海外へ販売するのは決定しています。まず、日本とほぼ同時期に台湾で販売し、その後はヨーロッパ、ASEANとワールドワイドに販売する予定です。

東日本大震災で再実感した自転車のポテンシャル

-初期のブログでは、電動アシスト自転車版も出す予定と書いてありましたが、現在も考えていますか?

現在は考えていないです。理由は2つあり、1つはアシストのON・OFFの作動感覚が合わないからです。開発中に何台か電動アシスト自転車に乗ったのですが、感覚が合わなくてよってしまい、中止にしました。

もう1つの理由は東日本大震災です。

-と言いますと?

私は東京のオフィスで震災に遭遇しました。公共交通機関が麻痺し、いたるところに人が溢れていて、家に帰れなくなったのです。妻も23区の会社に努めていたのですが、非常事態なので一緒にいたいと思い、オフィスに置いてあった研究用の2台の折りたたみ自転車で、妻のところへ向かいました。1台は私が乗り、もう1台は妻の会社がある方向へ行きたいという方に、かわりばんこで乗ってもらい、自転車のポテンシャルを再実感しました。

-どのような所で、ポテンシャルを実感したのですか?

タイヤに空気が入っていてワイヤー類が切れていなければ、多くの人が自転車に乗れます。法的には乗り物ですが、実際は眼鏡や義足など体の一部に近いと感じ、それが自転車の本質であり、凄いポテンシャルがあると実感しました。

電動アシスト自転車の場合、電池が切れると重い自転車になってしまい、その魅力の一部分がスポイルされてしまうと思ったのです。電動アシスト自転車の有効性は十分理解していますが、そちらに関しては他社さんにまかせたいと考えております。

-「自転車を主な移動手段とするライフスタイル」を広めるとのことですが、何かしらのアプローチを行うことは考えておりますか?

ポップアップストアの出店を検討しています。自転車に関しては実用性が高いアクセサリー「iruCart」「iruCarry」「iruCatch」をラインナップし、自転車を移動手段としたライフスタイルをアプローチします。

出典:iruka

irucartは、コンパクトで荷台になるカートです。私は元々、サイクルトレーラーを使っておりました。積載能力が増えるので素晴らしいのですが、問題もありました。東京で使った場合、小径自転車2台分なみに車体が長くなり、駐輪が難しく、内輪差も大きく使いづらいのです。しまなみ海道では問題にならなかったのですが。そのため、irucartはコンパクトで、都市部でも使えるサイクルトレーラーにしました。

-irukaに装着する荷台「irucarry」の特徴を教えてください。

出典:iruka

irucarryは、シートポストのクランプに装着し、サドルに装着したカプラーとベルトで吊り下げる荷台です。一般的な折りたたみ自転車はフレームにキャリアを装着しますが、これは折りたたみすると、荷物を外す必要があります。irukaは折りたたみ状態で駐輪や転がし移動を想定しているため、その都度荷物を外すのは違和感があります。irucarryは荷物を装着したままでも駐輪や転がし移動が可能です。また、取り外しもクランプとベルトを外すだけの簡単設計となっています。

-irucatchとは、どういう部品でしょうか?

出典:iruka

irucatchはハンドル中心部に装着したホルダーです。一般的な自転車用バッグは自転車専用品が殆どで、ファッションに合わないデザインや、中に入っているバッグを出し入れしないといけない問題があります。そのため、汎用性があるバッグを引っ掛けるホルダーを作りました。

これらのアクセサリーはirukaだけでなく、多くの折りたたみ自転車に使用できるように設計しています。irukaには、標準装備でサドルにオプションパーツを装着するカプラーがあり、そちらも販売します。

-販売計画はどのように考えていますか?

現在、ファーストロッドは150台を予定しております。また、最初の販売は関東圏に絞り込もうと考えております。その理由として、irukaが東京発を売りにしているのと、サポート体制をじっくりと立ち上げて販売したいからです。最終的には全国に販売する予定です。

株式会社オプトを退職し、自転車会社「イルカ」を立ち上げた小林氏の道程は長く険しかった。理想の折りたたみ自転車を求めるため、何年もかけて工場探しの旅をすることになったが、それでも諦めなかった。そして、完成したirukaは、独創性と実用性を両立した他社にはない折りたたみ自転車で、完成度は非常に高い。しかし、irukaはまだ泳ぎ始めたばかり。モビリティに新しい風を吹かせるか注目したい。

文:マツモトケンタロウ
協力:株式会社イルカ/小林正樹

http://iruka.tokyo/

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