電子書籍の歴史と現状・そして課題について その3

第3章 電子書籍の現状

第1節 世界における現状

電子書籍専用端末、サービス事業が成功しているアメリカでは、アマゾンの電子書籍端末キンドルは60%程度のシェアを持っているi

アマゾンは、2011年9月に、タブレット形パソコンのキンドルファイアを199ドルで発売すると発表した。キンドルファイアは、電子書籍以外にも、映画鑑賞やショッピングが可能になり、電子書籍だけではなく、総合的なサービスをうりにしている。また、今まで販売されていた電子書籍専用端末のキンドルも、一番安いモデルの価格を79ドルに設定した。これは、低価格で端末を販売し、早期にアマゾンのサービスを利用する人を増やして、電子書籍事業のシェアを取りたい思惑があるとからだろう。アメリカの電子書籍配信会社は、アマゾンの他にも、バーンズアンドノーブルやボーダーズ、ソニー、アップル、グーグルがある。バーンズアンドノーブルの主要な事業は書店だが、電子事業の取組については、両者は、異なる方針を打ち出している。バーンズアンドノーブルは、電子書籍専用端末ヌックを発売し、アマゾンのキンドルをライバルとしている。

アメリカでの電子書籍の購入額は、2010年には9.66億ドルなる見通しが立ったii。日本円に換算すると約760億円近くし、今まで、電子書籍の市場が最大とされてきた日本の市場を逆転することとなった、また、アメリカでの電子書籍端末の普及率は、20115月の調査によると、タブレット型パソコンの普及率は8パーセント、電子書籍専用端末は12パーセントiiiで、決して高くないが、徐々に普及している。 また、タブレット形パソコン、電子書籍専用端末を所有する人は、裕福な世代ほど所有率が高いデータが出ている。

電子書籍市場の発展により、紙媒体の書籍の販売に影響が出てきた。米国出版社協会による販売統計によると、2011年の3つの四半期合計で、15社の電子書籍の売り上げが72,770万ドルと、前年比と比べて137パーセント伸びた。一方で紙媒体の書籍の販売は18パーセント減少したiv。特に、販売下落が激しいのは量販ペーパーバックで、第3四半期までの合計で前年比と比べて33.3パーセント減となった。アメリカではグラミー賞の部門の1つになるほど、主要なジャンルの1つになっているオーディオブックも紙媒体の書籍と同じ傾向で販売数が変動している。CD等のソフトでの販売数は、3四半期合計では12パーセント減った。一方、ダウンロード販売等のデジタル版の販売は28パーセント増加している。2011年度前半でも、電子書籍の販売数は、前年同期比と比べて、160パーセント上昇した一方、ペーパーバックとハードカバーは、共に20%前後の落ち込みとなっているため、電子書籍が紙媒体の書籍の販売を減らしている

書籍の電子化は、教科書にも及んでいる。教科書の電子化は、アメリカ、韓国、シンガポールで、実証実験が行われており、特に韓国は、2015年までに国内の学校の教科書をすべて電子化する計画を発表しているv。電子教科書は、教科書が軽くなり、紙媒体ではできなかったアニメーション等の表現ができるよう利点があるが、電子機器端末は、破損などにより壊れる可能性がある。

第2節 日本における現状

日本での電子書籍の認知度は低くない。20118月に楽天リサーチは、全国の20歳から69歳の男女の合計1,000人に、電子書籍に関するインターネット調査の結果を公表した。 電子書籍の認知度は、「よく知っている」、「やや知っている」を合わせて71パーセントと高く、電子書籍の今後の利用意向は、「利用したこともあるし、今後も利用したい」13パーセントと「利用したことはないが、今後利用したい」の44パーセントを合わせて57パーセントと高いvi

日本の電子書籍の市場規模は、インプレスR&D2010年度電子書籍の市場規模の調査によると650億円と推計され、2009年度の574億円と比較して13.2%増加している。日本の電子書籍市場の大半は携帯電話向けの電子書籍で、2010年度は572億円と、電子書籍市場の88%を占めている。パソコン向け電子書籍は、前年度の横ばいの53億円となっているvii

日本の電子書籍サービスの3つの問題点がある。1つ目は、電子書籍端末の価格が高いこと。楽天リサーチの電子書籍に関するインターネット調査では、電子書籍専用端末がいくらであれば購入するかという質問で、5,000円以下が45パーセントと一番多かった。日本の電子書籍専用端末で一番安い機種はソニーリーダーのPRS-350という機種で9980円である。しかし、この機種は、書籍を購入する場合は、パソコンを使用しないといけない問題がある。アマゾンキンドル等の現代の電子書籍端末は、パソコンを使用せず、インターネットの無線通信を利用して、端末から直接電子書籍を購入する機種で一番安い機種は、ソニーリーダーのPRST1という機種が一番安いが、19800円する。性能面等の差があるが、アメリカでのアマゾンキンドルの79ドルと比べると高い。

2つ目は、日本の電子書籍配信サービスは、アメリカで6割のシェアを持っているアマゾンキンドルと比べると、魅力的とは言い難い面がある。201112月現在、日本では、スマートフォンやタブレット端末で、アマゾンキンドルのソフトを導入すると、キンドルの配信サービスが使用できるが、今の所は、英語の書籍しかラインナップにないので、日本語の書籍はほとんどないに等しい。

キンドルは、購入した書籍はパソコンや電子書籍専用端末のキンドル、スマートフォンやタブレット形パソコン等で読むことができるが、日本の電子書籍配信サービスでは、キンドルと同等のサービスがない。例え

ば、ソニーリーダーは、購入した書籍はソニーリーダーでしか見ることはできない。また、漫画を中心に配信しているebookjapanでは、一般的なパソコンから、タブレット形パソコンやスマートフォン等、幅広い端末で読むことが可能だが、他の端末で読む場合には、購入した書籍をトランクルームという、ウェブ上の保管場所に一旦置き、別の端末で取り出さないといけない手間が生じる。また、キンドルでは自費出版や、読んだ本等の感想などを投稿できるソーシャルネットワークサービスなどのサービスを提供しているが、日本では同様のサービスを提供している会社はない。キンドルは書籍を電子化するにあたり、新しい発想を取り入れ、消費者、生産者を区別せず受け入れ、利用者を増やす傾向にある。一方、日本の電子書籍販売サービスは、今まで店舗で書籍を販売していた従来の考え方を、そのまま電子化しているのが実情で、キンドルみたいな電子書籍ならではのサービスを打ち出していないところが多い。

アマゾンは2011年内にキンドルを日本進出するとの発表があった。報道によると、アマゾンが日本に進出するにあたり、価格決定権はアマゾンが持つ等、出版社に対して、強硬な条件を提示している報道があり、戸惑っている出版社もあるviii。 その一方で、201111月に楽天は、カナダの電子書籍販売会社、kobo社を買収すると発表。楽天は既に電子書籍配信事業を発足しているが、Kobo社の買収により、電子書籍配信事業を強化していくと思われる。 Kobo社の電子書籍は、アマゾンと同じように、専用端末だけでなく、スマートフォン、タブレット型端

末、パソコンなど、あらゆるデバイスで読むことが可能である。また、読書中の本についてどのくらい読んだかという情報や、感想などを、電子書籍端末から直接Facebookなどのソーシャルネットワークサービスを利用することが可能という特徴を持っている。

日本市場でのKoboの投入は、詳しい内容は公表されていなく、今後の動向が注目される。

キンドルのサービスから遅れている電子書籍配信事業が大半なところで一方で、独自に生まれた電子書籍配信サービスもある。 漫画家の赤松健が行っている Jコミは、アップロードした絶版漫画を、作者の了承を得た上で広告を挿入した形で公開している。Jコミのサービスで特徴的なのは、広告収入を作者に還元することだ。今まで絶版になった漫画は、作者にとって利益が出なかったのが、広告を付けインターネット上に出すことによって、利益を手に入れることができるようになった。漫画の電子化等は、配信サービスの提供者が行っていない。紙媒体の書籍の電子化は個人が行ったり、違法流通されている電子データをアップロードし、配信者側は最低限のコストでサービスを行えることができる。

もう一つは、201111月に動画配信サービス「ニコニコ動画」で有名なドワンゴが角川グループとの協力で、電子書籍サービス「ニコニコ静画(電子書籍)」が始まった。このサービスは、角川グループが提供する電子書籍配信サービスのコンテンツの中で、ニコニコ動画を利用しているユーザー層が高いものを中心とした作品が読める。「ニコニコ静画(電子書籍)」の特徴は、コメントを投稿し、コメントが閲覧画面上に表示される機能だ。このコメント投稿機能は、ドワンゴが2006年から行っている、ニコニコ動画で内臓されている機能を、電子書籍に応用したといえるだろう。

i 日経BPネット「電子書籍は“黒船”なのか| nikkei BPnet 〈日経BPネット〉

2010629日作成

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100628/233942/?rt=nocnt>(201112月参照)

ii US e-book sales near one billion dollars in 2010: Forrester

2010119日作成<http://www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5iX7RENzv2j7Hj0-axRKxBLF5n1cg>(201112月参照)

iii Pew Research CenterE-reader Ownership Doubles in Six Months

2011627日作成

http://pewresearch.org/pubs/2039/e-reader-ownership-doubles-tablet-adoption-grows-more-slowly>(201112月参照)

iv EBook2.0 WeeklyMagazineE-Book拡大も印刷本低落を補えず:9月のAAP

2011125日作成

http://www.ebook2forum.com/members/2011/12/ebooks-unable-to-offset-print-books-drop-by-aap-stats/>(201112月参照)

v野村総合研究所『2015年の電子書籍』78‐98

vi楽天リサーチ「電子書籍、使いたい端末「スマフォ」が33.9%と躍進 電子書籍に関する調査

2011830

http://research.rakuten.co.jp/report/20110830/>(201110月参照)

vii インプレスR&D 「<電子書籍ビジネスに関する調査報告書を2冊同時発売>

2010年度の電子書籍市場規模は前年比13.2%増の約650億円―2015年には2010年度比約3.1倍の2000億円と予測―

201171日作成

http://www.impressrd.jp/news/110707/ebook2011>(20119月参照)

viiiSankeiBiz「“黒船”キンドル襲来に戦々恐々 アマゾン、電子書籍で日本参入」20111021日作成

http://www.sankeibiz.jp/business/news/111021/bsj1110210503001-n1.htm>(201112月参照)

スポンサーリンク